陰陽師の呪文一覧
その歴史は古く、飛鳥時代以前から「陰陽家」として高句麗から渡来したことが記録に残っていますが、中でも特に有名なのは平安後期に活躍した「安倍晴明(あべのせいめい)」でしょう。
朱雀帝の時代から6代にわたり、天皇の側近として数々の功績を残した安倍晴明は、遣唐使として本場城刑山へと趣き、陰陽道を極めて帰国した後は日本独自のスタイルを確立しました。安倍晴明を御祭神に祀る京都市上京区の「晴明神社」は、魔除けと厄除けにご利益のある神さまです。
陰陽師は、新撰陰陽書(しんせんおんようしょ)・黄帝金匱(こうていきんき)・周易(しゅうえき)・五行大義(ごぎょうたいぎ)などを紐解き、7つの呪文を使ったと伝えられています。
真言
「真言(しんごん)」とは「仏の言葉」という意味で、古代インド発祥の「マントラ」です。言葉が仏そのものであるとの考え方から、呪文に何らかの威力があり、唱えることで効力を発揮するというものです。言葉の意味よりも発音することが重要視されます。
その中でも特に最強と言われるのが、弘法大師空海も唱えた「光明真言(こうみょうしんごん)」です。「おん あぼきゃ べいろしゃのう まかぼだら まに はんどま じんばら はらばりたや うん」と唱えればすべての災いが消滅すると言われています。覚えて唱えると心が落ち着く、お勧めの真言です。
その他に有名なのが、不動明王の真言「のうまく さんまんだ ばざらだん せんだ まかろしゃだ そわたや うんたらた かんまん」で、呪文を唱えれば体中に力がみなぎるのを感じます。
そわか
「般若心経(はんにゃしんぎょう)」の最後にも「菩提薩婆訶(ぼじそわか)」という一説がありますが、これは「ボディ スヴァーハー」という発音で、「悟りよ、来たれ」と解釈することができます。
九字など
他に「天・元・行・躰・神・変・神・通・力」などのバージョンもあり、宮廷の陰陽師は「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女」を使用しました。
これに、両手で手印を結ぶ「剣印の法」や空中に格子を描いて退魔する「破邪の法」などの手振りを付けて呪を放ち、護身や悪霊払いに使用します。
陰陽師の結界の呪文一覧
封印の呪文など
結界を張ったり、封印する場合には「急急如律(きゅうきゅうにょりつ)」の呪文を用いて呪術に即効性を付加したと言われています。結界は「聖」と「俗」を分ける境界のことで、邪気が入ってこないように封じます。
第27代陰陽師・安倍成道氏のブログによれば、平安時代の陰陽師によって張られた結界が未だに機能し、写真などに写り込みます。木や石は気を溜めやすい性質があることから、陰陽師は今でも石に念を込めて結界に使うということです。
陰陽師の恋愛に関する呪文
愛染明王は、人間の愛欲を悟りに変えてしまう仏さまなので、本気で好きな人と結ばれたいと願う時に唱える呪文と言えるでしょう。心をこめて呪文を唱えればその効力は絶大で、真言を30万回唱えればすべての人から慕われると信じられています。
恋愛は、嫉妬や恨み、妬み、裏切りなど、人の感情が渦巻く一大ステージです。成就すれば嬉しいものですが、もしそうでない時は深い悲しみが待っています。映画「陰陽師」でも、主役の安部晴明が「恋愛も呪(しゅ)のひとつである」と語るシーンが印象的です。
また、ネット上で「オンキリホヲアンソワカ」を8回唱えると恋愛が成就するとの噂がありますが、こちらは一般的な真言とは違うもので、出処は不明です。
陰陽師の呪文に関する本の紹介
映画にも登場する陰陽師の秘儀「泰山府君祭(たいざんふくんのまつり)」は、安倍晴明がもっとも得意とする陰陽術で、劇中では死者を蘇らせる呪文として描かれていますが、本来は国家鎮護と帝の長命を祈る儀式として宮廷内で執り行われていたものです。いずれにしても、呪文が人間の気を放つためのツールであることが感じられます。
映画のわき役である陰陽師の小道具など、細部にまでスポットが当てられていますので、陰陽師が活躍した平安ロマンの世界感に浸れるでしょう。狂言能楽師の野村萬斎演じる安倍晴明が、劇中で唱える呪文についても詳しく解説されています。
映画を見ただけでは「??」なことも、晴明が小声でブツクサ言っている呪文のことも、とてもよく判るように書いてくれている本なので、とても参考になりました。本のサイズも大きすぎず、あちこち持って歩けるので便利。萬斎さん、伊藤さん、真田さんのインタビューがとても面白くてよかったです。映画のコンセプトの解説だけでなく、役者たんたちの間柄、撮影の難しさ、陰陽道の考察など内容は初心者にはかなり満足できるものでありました。Ⅱのときがたり絵巻が出るのが楽しみです。
陰陽師の呪文と式神の関係性
「式」は今でいう方程式のように一定の手順を踏むことで自然の法則を導き出すといったニュアンスを持つとされ、自らの意志で陰陽師に仕える「思業式神(しぎょうしきがみ)」、陰陽師の家来になったかつての悪霊「悪業罰示式神(あくぎょうばっししきがみ)」、人形(ひとがた)や木の葉などを使う「擬人式神(ぎじんしきがみ)」などがあります。
また目的によって「下位式神」と「上位式神」に分類され、一般的な「護符」などは「下位式神」に入ります。「上位式神」は、呪文によって陰陽師の強いオーラである「御度(おど)」が込められ、分身として用いられます。
今も生きる陰陽師と呪文
知れば知るほどミステリアスで興味深い陰陽師ですが、今も昔も人の心が言葉(言霊)を通して自然界に強い影響を及ぼしているという事実も、同じように興味深いことではないでしょうか。言葉を使う際には、心して大切に使いましょう。