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自己効力感の尺度と看護への影響・自己効力感を高める方法

自己効力感とは

今や、自己啓発系の書籍ですっかり認知度が上がった「自己効力感(セルフ エフィカシー:self-efficacy)」ですが、もともとはスタンフォード大学教授で心理学者のアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が1990年代に「社会的認知理論」の中で提唱した認知の種類で、人が行動を起こす前に感じる「遂行可能感」を示す心理学の用語です。

自己効力感とは、自分がある課題を達成できる可能性に対する自分自身の判断です。外部からの要望に応えられるという自信(セルフ イメージ)と言い換えることも可能で、たとえば他者の成功談を聞いたとき「自分にもできそうだ」と思える性質を意味します。「自己可能感」と訳されることもあり、「思い込み力」とも言われます。

バンデューラ博士によれば、わたしたち人間は自分の感情や行い、ものの考え方などをコントロールしているのが自己効力感であり、言い換えれば人間の考え方や感情の源泉とも言えるのが自己効力感であると表現することもできます。その理論は幅広い分野に応用され、心理学のみならず、社会学や教育学などに大きな影響を及ぼしてきました。

自己効力感の定義

人が自分の行動を決める要因には、「先行要因」「結果要因」「認知的要因」の3つがあると考えられていますが、バンデューラ博士によれば、このうち自己効力感と関係が深いのが「先行要因」で、先行要因はさらに「結果予期」と「効力予期」の2つに分類されます。

「結果予期」とは、ある行動がどのような結果をもたらすかを予期(評価・想定)することです。一方、「効力予期」は、自分が望む結果を生み出すための行動を、自分がどの程度うまくできそうかという予です。自己効力感とは、後者である「効力予期」の自己評価を示す表現です。

自己効力感には3つのタイプ

「自分はできる」という思い込みが自己効力感ですが、作用する状況に応じて大きく3つのタイプに分類され、語られることがあります。以下で簡単にご紹介します。

自己統制的自己効力感

自分の行動全般をコントロールするための、基本的な自己効力感を「自己統制的自己効力感」といいます。自己統制(セルフレギュレーション:self-regulation)は、強制されるのではなく、自らの意志によって自分自身の行動を調整しようとすることで、対人関係の基礎となる行動です。

この自己効力感が低いと、たとえばダイエットや禁煙など、自分自身の健康管理のために自己統制したいと望んでいるにも関わらず、「目標を達成できないに違いない」との思いから禁煙やダイエットに成功した自分を想像できない、一歩踏み出せない、3日坊主になったら「やっぱり無理だった」とすぐに諦めてしまうという結果に繋がります。

これでは身体的健康を維持できないばかりか、自己管理ができない自分自身への嫌悪感は強まるばかりで、メンタルへの影響も心配されます。

社会的自己効力感

おもに対人関係における自己効力感を「社会的自己効力感(ソーシャルエフィカシー:Social Self-efficacy)」と呼びます。人は自己効力感の低い課題に対して消極的になったり、意識して避けるようになる傾向が強く、それがさらに良くない結果に繋がるといわれています。良好な対人関係を築く自身がない人が孤立しやすいのはそのためです。

たとえば、数人のグループが集まって小声で何か相談している時、自己効力感の高い人なら自然に加わることができますが、そうでない場合は「のけ者にされているのでは」「自分の陰口を言っているのでは」と想像して壁を作ってしまいます。

学業的自己効力感

同じように、「学業的自己効力感」は、学習能力に対する自己イメージです。小学校時代の先生が苦手で勉強が嫌いになったという人や、親から口煩く言われた記憶から学業的自己効力感が低下したという人も多いのではないでしょうか。自己効力感は、生まれ育った家庭環境や養育姿勢に大きく関係していると言われています。

自己肯定感との違い

よく自己効力感と比較される言葉に「自己肯定感(Self-esteem)」があります。どちらもモチベーション(物事に取り組む意欲)に深い関係がありますが、自己効力感が自分自身の能力に対する自己評価であるのに対し、自己肯定感とは言い換えれば「無条件に自分を信じる」感性であり、「自分は生きているだけで価値がる存在」だと感じられる心の状態を意味します。

自己肯定感が低いと、自分自身の感覚よりも他者から見てどう思われるかに神経をすり減らして萎縮したり、他者の言動に過敏に反応してしまうため生きていて疲れます。どうせできないと考えて何事にも本気で取り組まない、自分に自信がないので取りあえず良い人を演じる、他者を批判して優位性を示そうとするなどは、自己肯定感の低さを示す特質です。

自己肯定感の強い人は、失敗すれば落ち込むこともありますが、そんな自分を受け入れることができるので立ち直りも早いのが特徴です。「自尊感情」とも呼ばれることもあり、時にプライドの高さを意味する性質として誤解されることもありますが、自分自身の尊さを知る人は他者をも尊重することができるため、自分だけが尊いということではありません。

自己有用感との違い

自己効力感や自己肯定感に近く、やや聞きなれない言葉に「自己有用感(じこゆうようかん)」があります。人から感謝された、人の役に立つことができた、人に喜んでもらえたなど、他者との関わりを肯定する中で自己を肯定する感情です。

すでに述べたように、「自尊心」とは自他を超えた人間本来の尊さに目覚めた時に感じる感情であり、自分勝手なナルシストのことではありませんが、子供の自尊心を育てようとする取り組みの中で「ほめ育て」の弊害が見え始め、その難しさが見直されるようになりました。

そこで、「褒めたり、おだてることで自信をつける」という育て方ではなく、「褒められることで自己有用感が高まり、自信を持って成長できる」育て方が評価されるようになりました。人に認められない人間や、役に立たない人間には価値がないとのゴールに向かいそうな気もしますが、こばかりは結果が出るまで何とも言えません。

自己効力感が高い人の思考

新しいことにチャレンジする時、「なんか行けそうな気がする」「今はできないけど、練習すればできるようになると思う」という根拠のない自身を持つ人は、自己効力感が高いと言えるでしょう。「そんな気がする」「なんだかわくわくする」と思える時、そこに理由なんてありません。

プロデューサーの秋元康氏が、アイドルに必要な素養を問われて「根拠のない自身」と答えたというエピソードは有名ですが、自信過剰な人が雰囲気でそれとわかるように、自身のなさもその人の雰囲気を作り、魅力を半減させると言われます。「自分自身こそが最強の応援団長」だと言われる所以もそこにあると言ってよいでしょう。

自己効力感が低い人の思考

あなたは、友人との対話の中で「そんな風に思えない」「そんなの、きれいごとにしか聞こえない」「どうすればそんな考え方ができるのか」と、ネガティブなことを言われた経験はないでしょうか。その友人は自己効力感が低かった可能性があります。

何か目標を持った時、わたしたちはその道の成功者のやり方を参考にしようと考えます。伝記を読んだり、自己啓発本を読むのもそのひとつです。しかし、自己効力感の低い人がいくら成功者のエピソードに触れたところで、「あの人だからできたこと」「親が資産家だったから」「才能に恵まれた」と、他の人にはできても自分にはできないさまざまなアイデアを並べるだけです。

自己効力感の低い人にとって、他者の成功談や友人からの励ましは一時の妄想を楽しむための物語に過ぎないので、なかなか「自分も同じように行動を起こしてみよう」とは思えません。

自己効力感を高める方法

まだ因果関係や関連性に関する研究は少ないものの、自己効力感を形成する要因には幼少時の保育の質や親子関係が影響しているとの報告もあると聞きます。また、個人の自由意志よりも世間体や常識を重んじる日本人は、世界的に見ても自己効力感が低い民族だとも言われます。

しかし、今からでも自己効力感を高めることは十分に可能です。では、自己効力感が低く「どうせできない」と考えがちな性格に何らかのポジティブな変化を与えるためには、どうしたらよいでしょうか。ここからは、「自己効力感に変化をおよぼす情報源」つまり、自己効力感を向上させるのに効果的な方法をご紹介します。

達成経験

「達成経験(遂行行動の達成)」とは、実際に行動した結果として何かをやり遂げることができたとか、成功したという経験のことです。研究によって実証されているわけではありませんが、一般に自己効力感の先行要因のうちでもっとも影響力があるとされ、重要視されています。

自分で行動を起こし、成功するという体験を蓄積することで自己効力感を高めると、一度できたことは「次もできるだろう」と考えやすくなり、さらに自己効力感が上昇します。「好きこそものの上手なれ」とは、自己効力感のことを表現したことわざだったと言って良いでしょう。

具体的な方法としては、一度に高い目標を決めてしまうのではなく、段階を追って無理なく達成できるように「できて当たり前」と思えるような小さな目標から徐々に積み重ね、とにかく「成功体験」を蓄積する「スモールステップの原則」を守ることが大切です。

反対に、高過ぎる目標を掲げて挫折したり、失敗する体験が増えると「何をやってもうまくいかない」と自暴自棄になり、自己効力感が低下します。

代理経験

「代理体験(モデリング)」とは、自分自身が行動する前に他人のやり方を観察したり成功体験を聞くなどして「自分にもできそうだ」と感じる経験のことで、わたし達が何かを始める時に当たり前に要求する「お手本」「見本」などはその好例です。

これから行おうとしていることを上手く達成している人の様子から、自分にもできるとイメージすることが肝心なので、この場合はモデルとなる人が自分に似た環境下にあったり、条件が近いほど自己効力感を向上させるのに効果的だと言われています。

言語的説得

言葉による励ましや暗示を与えることで自己効力感を向上させる「言語的説得」は、「君ならできる」「あなたには能力がある」と言葉による暗示を与えられることで、前述した達成経験や代理体験に比べて消失しやすい体験であるため、他の補助として付加されることが望ましいとされる方法です。

自己効力感は、自分が行動を起こした結果や努力そのものに対して、特に専門性に優れていたり信頼できる人格を有する他者から認められることによって、より高められる傾向にあります。

生理的情緒的高揚

「生理的情緒的高揚(情動的喚起)」は、緊張でドキドキすると気持ちまで不安になったり、余計に緊張してしまう自分自身の生理状態を知覚することによって、自己効力感に影響を与えることです。今まで苦手としていた場面で落ち着いていられたり、赤面症の人が赤くならなかったりという体験を積むことで、自己効力感が強められると言われます。

また、アルコールや薬物による精神の高揚感をはじめ、掃除をやり遂げたときの爽快感や、目標を達成できた時の高揚感などを拠り所として自己効力感を高める方法もあります。

想像的体験

「想像的体験」は、自分自身や他者の成功を想像する、イメージトレーニングです。人間の脳は想像したことと実際に体験したことを区別しないという特質があることから、願望をリアルに想像することで達成感や成功感を体験することができます。

自己効力感のための本

「自分の限界を決めるのは自分自身」などと言いますが、人間の信念はキリストが「山をも動かす」と語ったほど強いもので、無理と思えば絶対に無理です。そんな凝り固まった信念をスピーディーに揉み解したい時は、専門家の意見に耳を傾けましょう。ここでは、自己効力感を高めるのに役立つ本をご紹介します。

残り97%の脳の使い方

「エフィカシー(自己効力感)」という言葉をポピュラーにした立役者の一人が、認知科学者の苫米地英人氏ではないでしょうか。

カルト教団オウム真理教の元信者の洗脳を解いたことで一躍知名度を上げた苫米地氏の書籍はどれも大ヒットしていますが、中でも「残り97%の脳の使い方」は、売上げ15万部を突破した作で、イメージトレーニング法など自己効力感を向上させる具体的な方法が語られています。

専門的な分野を扱った書籍でありながら、2時間もあれば読了できてしまう読みやすい文章に加え、心理学に基づいたメソッドで効果が分かりやすいのの秘密でしょう。

エフィカシーの高め方の具体例が記されている、
わかりやすく、2時間程度で内容を理解することができた。

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自己効力感だけじゃダメ

自分には目標を達成するだけの能力が備わっていると感じられることは幸せなことであり、答えのない人生を生きていくうえで大切なことです。しかし、自己効力感が高ければ人生は平和で豊かになるかと言えば、人間の心はそれほど簡単ではありません。

たとえば、上手くいかないことが続いた時などに、「何となく上手くいくと思った時でも、自分は必ず失敗する」「自分が失敗するのは、生まれつき運が悪いせいなのかもしれない」という思考に陥ったことはないでしょうか。

世の中には運が悪かったと思って潔く諦めざるを得ない出来事があることも事実ですが、失敗をいつも運のせいにしていたのでは、いつまでも目指す目標に到達することはできません。次に、自己効力感を中心に、同じく健全な生き方に必要とされる「自己肯定感」とのセットで考えてみます。

自己効力感があっても自尊心が低い

それなりの実力があるのに自尊心が低く、自己効力感が高い人は、計画が上手くいっても自分の努力の結果だとは認められません。何のとりえもない自分がうまく立ち回れるのは運が良いからだと考え、スピリチュアルや宗教に関心を寄せたりします。物事が上手く進んでいるうちは良いですが、自己分析ができていないという弱点があります。

自尊心はあるのに自己効力感が低い

多くの場合、物事に失敗するのは努力が足りなかったためと考えられますが、自尊心は高いのに自己効力感が低いという人は、能力のある自分が失敗するのは運が悪かったためだと考えたり、原因が自分以外のところにあると考える傾向にあります。また、失敗を真摯に受け止めないので、何度も同じ失敗を繰り返しがちです。

人間として尊い存在であることと得手不得手は別なので、「自分は自分」と開き直らずに、時にはコツコツ努力してみてはいかがでしょうか。

自己効力感の尺度

特に保健指導に有用な概念のひとつに数えられる自己効力感は、おもに「認知行動療法(Cognitive behavioral therapy:CBT)」における認知的変数として、現在までに多くの「評価尺度」が開発されています。認知行動療法とは、従来のように人間の行動だけに焦点を当てるのではなく、思考や認知に注目した新療法のひとつです。

調査票は大きく「行動の積極性・失敗に対する不安・社会的な能力」の3つの項目から成り、それぞれいくつかの設問に対して、当てはまると思うもの・そうでないものに「はい・いいえ」で答えるというシンプルなものが一般的です。

精神分析が無意識領域を扱うのに対し、意識的な思考は観察が可能で、科学的根拠に基づく有効性も認められています。また、尺度をマニュアル化できるため、自助ツールとして活用することも可能です。

自己効力感の看護への影響

自己効力感の理論は、職場環境におけるストレスの軽減や、看護教育の分野でも活用されています。自己効力感を向上させることにより、何事にもやる気が出ない、億劫に感じるなど、精神疾患や精神運動抑制が改善されることが知られており、退院後も再発のリスクが軽減されると言われています。

これには、自己効力感が高まることで、困難な問題の解決にも積極的に取り組めることや、ストレスに対する抵抗力が向上することなど、ストレスの多い環境下でも心の健康を損なわないための対処行動が可能になるためとの理由が挙げられています。

自己効力感に関する論文

九州保健福祉大学大学院社会福祉研究科の越谷 美貴恵氏は「後期高齢者の自己効力感に関する研究(A study on self-efficacy of the elderly)」という論文の中に、バンデューラ博士の社会的学習理論に基づいた自己効力感に焦点を当て、75歳以上の後期高齢者が健全に生きるための意欲に影響を与える要因についてまとめています。

老人施設の入所者と、デイケアに通っている平均年齢85.7歳の老人65名を対象に行った面接調査によれば、自己効力感の高い老人では今の生活を前向きな気持ちで生きること、家族や周囲との人間関係が良好であること、健康であること、趣味があること、自分の半生を肯定していることなどの特徴が見られたということです。

一方、自己効力感の低い老人になると、今の生活に対する不満や、これまでの人生に対する後悔、身体的な不調などが挙げられました。幸せな老後を楽しむためには、まず健康であること、積極的でポジティブな性格、趣味をもつこが大切であることが分かります。

自己効力感に理由はいらない

いかがでしたか。今回は、「エフィカシー」の呼び名でもおなじみの自己効力感についてのまとめでした。一度失敗したらまた次もと考えてしまうのは人間の性ですが、失敗したからと言って自分自身の価値が下がるわけではありません。自己効力感を高めるには、同時に自己肯定感を見直してみると効率的です。

また、失敗を恥とするのは勝手な観念で、他者の失敗を否定的に捉える傾向が強いほど失敗を恐れるものです。身動きが取れなくなってしまった時は、まずは他者に対する自分の評価を見直してみることをお勧めします。自分を縛っているのは他ならぬ自分自身の価値観であったと起伏でしょう。固くなった心をほぐし、軽い気持ちで自己実現を目指してみませんか。

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