苦笑いとは
特に面白いとおもっていないけど、なんとなく笑わないといけない状況や、返答に困って笑うしかない状況など、苦笑いは私たちがよく使う表情です。
ただ、この「苦笑い」はネガティブな意味で使われることが多く、相手に良い印象を与えないこともあります。無意識にしろ意識的にしろ、苦笑いをするような状況はどんなときなのでしょうか。また、なぜ、苦笑いしてしまうのか、考えてみましょう。
苦笑いの意味
「苦笑い」を辞書で引くと「心では苦々しく、具合が悪いことと思いながら、それを紛らわすために笑い顔をつくること」とあります。私たちを取り巻く人間関係は複雑です。ストレートに感情を表に出すことばかりが自己表現ではありません。
意に沿わないことがあっても、なんとなく笑って対応しなければいけない場面は、社会の中にはたくさんあります。自然と「笑う」のではなく、笑い顔を「つくる」のが苦笑いの真意と言えます。
苦笑いをする心理とは
苦笑いの表情を思い浮かべるときよく言われるのが、口は笑っているが目が笑っていない、という表現です。この表現は、苦笑いの特徴をよく捉えています。ふたつの相反する感情を同時に含む、苦笑いという感情表現は、心の中の複雑さをよく表していると言えます。
では、心から笑えないのに笑うしかない時の心理とは、どういったものなのでしょう。苦笑いをする時の心理と特徴を、5つの例をあげて考えてみましょう。
苦笑いをする心理の特徴
それにはまず、どんな時に苦笑いをしてしまうのか、を考えてみることです。実は、苦笑いをしなくてはいけないような場合の多くには「曖昧にしておきたい」という感情が含まれています。
はっきりと自分の意思表示をしてしまったら相手が不快に思う可能性がある、という思いが働く結果、表情がどっちつかずになる、という訳です。
特徴1:困惑
この「曖昧な」感情の代表的な表情が、困惑です。惑う、という文字が入っていることからもわかるように、その場の対応にただ困るだけでなく、困ってどうして良いかわからなくなることです。
自分の心の中を読まれたくない時に無意識に出てしまう表情で、相手に困った顔を見せないことが、意思をはっきり表さない、と思われて嫌がられることもありますが、あくまでも中立的な立場でいたいという、いじらしい思いを含んだ苦笑いです。
特徴2:会話がつまらない
自分には興味がないことや関心がないことを聞かされたときに、相手に、もうその話題はやめよう、とはっきり言える人は世の中にそう多くはありません。「言い出せない」という心理も、苦笑いを作ってしまう要因のひとつです。
なんとなく相槌を打つことでその場が乗り切れるなら、なにもはっきりつまらないと言わず、わざわざ相手に不快な思いをさせずに済みます。言い出せない時の苦笑いには、そんな配慮も含まれています。
特徴3:怒りたくても怒れないとき
よく仕事場で苦笑いをしてしまうような状況になる例が、上司や年上の人が失敗したり間違えたりした時です。そんな時の、怒るに怒れない、でも笑うわけにもいかない、という状況が、苦笑いという表情を作ることになります。
私たちは、日頃の先輩や上司に対しての遠慮や尊敬も含めて、相手の人を傷つけないように、という心理が働くと、自分の表情を曖昧にする傾向があります。
特徴4:感情表現するのが苦手
そもそも、感情をおもてにストレートに出すことができれば良いですが、そういった直接的な感情表現が苦手な人もいます。「言い出せない」思いや「困惑」の表情も、感情表現を無意識に抑えているという点では似ています。
しかし、ストレートな表現が「できるのにしない」のであって、それに対して感情表現が苦手な人は、ストレートな表現が「できない」ことが多いので、自然と苦笑いの場面も多くなります。
特徴5:無理して友人関係を保っているとき
友人、とひとことで言ってもその親密度は人によってさまざまです。付き合うのが苦手だな、と感じる相手でも、慕われれば邪険にすることはできませんし、嫌いな人に対しても笑顔をつくらなくてはならない場面は、社会に出たらよくあることです。
無理をしている人間関係では、心から笑顔で接することは難しく、苦笑いでごまかすことがあります。心の中の声と表情が一致しない苦しさがよく表れていると言えるでしょう。
苦笑いの使い方
苦笑いは、感情表現としては好まれる表現ではありませんが、苦笑いという表現が無かったら、すべての表情がストレート過ぎて、かえって良好な人間関係を築くことができません。
苦笑いは、複雑な社会の中で私たちが生み出したコミュニケーションのひとつの大切な方法です。そんな苦笑いを、私たちは日頃どんなふうに使っているか、また、意識的に使う場合と無意識の場合と、その使い方に違いがあるのか、考えてみましょう。
例1:苦笑いをする
感情をあらわにできない時に思わず出てしまう苦笑いの表情は、スムーズにコミュニケーションしようという時のとっさの努力の表れです。
無意識なことが多いものですが、相手のことをあまりよく思っていない、あるいはその話題にあまり興味がない、という時に多く、相手に「気を遣う」という意味で苦笑いをする場合は意識的にすることもあります。
友人の失敗を慰めたりする時の苦笑いは、同情の苦笑いとも言えます。
例2:苦笑いをされた
逆に、相手に苦笑いをされたことがある人も多いでしょう。苦笑いは、自分では無意識に表情を作ってしまう場合が多いですが、その表情を見ている相手にはニュアンスが伝わってしまい、それが良い印象を与えない原因のひとつになっているとも言えます。
苦笑いを「する」方が意識的にしろ無意識にしろ、苦笑い「された」側の人は表情を読みとれることが多いので、注意も必要です。
例3:苦笑いを浮かべる
苦笑いを「浮かべる」という表現が「する」「される」苦笑いと大きく違う点は、目の前にその苦笑いの相手がいないことでしょう。
苦笑いを浮かべる場面は過去の場面、あるいは想像の場面であって、今現在目の前で起こっていることではありません。苦笑いを浮かべる、という表現は、過去を思い出したり、その後の展開を想像して、意識的にネガティブな笑いをすることです。
「笑い」を使った熟語の例
苦笑いの他にも、「笑い」という言葉が入った表現はいくつかあります。そのなかには、意味が変化してしまい、実は間違った使い方をされている言葉もあったり、似たような表現で使われている言葉もあります。
微妙な意味の違いを理解してみると、改めて、日本語の言葉の複雑さ、感情表現の多様さを感じます。そんな「笑い」に関する熟語のニュアンスの違いを、いくつか例を挙げてみていきましょう。
例1:失笑
苦笑いと似た表現でよく使われるのが「失笑」という表情です。日頃、失笑という言葉を私たちが使う時、そこには相手に対するちょっとした軽蔑や呆れた思いが加わっていることが多いです。
しかし、実はもともと、失笑は「思わず吹き出す」という意味で使われていただけで、笑いも出ないくらい「あきれる」というようなネガティブな意味ではありませんので、使うときは注意が必要です。
例2:哄笑
苦笑いとは対照的に、大声でドッと笑う時の表現が「哄笑」です。哄笑は、会場でどよめきがおこるような場面で使われる笑いの表現です。
また、大勢の人が一斉に笑う時に使われる言葉ですが、否定的な意味を含んだ表現として使われる場合もあります。相手への軽蔑の感情や、否定的な感情を含んだ時の大笑いの表現と言ってもいいでしょう。
例3:嘲笑
苦笑いは「する」側と「される」側、あるいはその相手によって、ネガティブな意味にもポジティブな意味にも捉えられる笑いですが、そこに、明らかにネガティブなマイナスイメージしか含まれない笑いが「嘲笑」です。
嘲笑は、見下すように笑うことで、人をからかったり、バカにしたりする場面で使われます。この嘲笑は、目の前に相手がいようがいまいが、意識的にする表情には変わりなく、不快な笑いと言えるでしょう。
例4:冷笑
嘲笑に似た表現で、意識的だけでなく無意識にも使われるのが「冷笑」です。冷笑も、見下して笑う場合や、冷ややかに笑う表現として使われますが、嘲笑よりも少し控えめな表現と言えます。
いわば冷笑は、ネガティブなイメージだけを含ませた苦笑い、と言ってもいいでしょう。相手に表情を読み取られた場合に、苦笑いよりもマイナスイメージが強く、不快に思われることが多い笑いです。
例5:笑止
もうひとつ、苦笑いに似た表現で「笑止」という笑いの表情があります。困ったことがあった場面に思わず出てしまう笑いで、苦笑いと似ていますが、笑止の場合、そこにちょっとだけ、バカにしたような意味が含まれるときがあります。
ニュアンスとしては、苦笑い<笑止<冷笑といった順番にマイナスイメージが強くなると言えます。
例6:爆笑
「爆笑」は、このお笑い芸人全盛の時代にはおなじみの表現です。大声でドッと笑う、という意味では哄笑とニュアンスは似ていますが、爆笑という言葉には否定的な意味が含まれることはほとんどありません。
また、哄笑という笑いは大勢の人が一斉にどよめく、一斉にドッと笑う時によく使われる表現ですが、爆笑という表現はひとりの人の場合にも使われます。
ストレスを抱えているあなたにおすすめのサービス
無理に良好な人間関係を築くのは肩が凝ります。しかし、私たちの周りには、気が合った仲間ばかりが集えるわけではありません。そんなストレスを、私たちは日頃ひとつの方法として、苦笑いという表情を使って解決しています。
苦笑いは、相手に不快な思いをさせないように配慮した結果ですが、自分にとっては、嘘をつくことにもなります。そんな心の中の矛盾を楽にするためにも、専門家のアドバイスは大切です。
苦笑いの類語
「笑い」という言葉を含んだ熟語の例をいくつか挙げてきましたが、他にも、ニュアンスが違うけれども似たような類語というものがいくつかあります。
「類語」は、似たような言い回しですが意味は違う言葉のことです。ですから、それぞれの意味を知って、間違えて使うことがないように、ここで具体的に4つの類語について解説していきましょう。
類語1:空笑い
そらわらいとは、おかしくもないのに無理に笑うことを言います。「乞食の空笑い」という有名なことわざは、乞食が物欲しさに心にもない笑顔を見せるように、自分の目の前の利益を得るために心にもないお世辞をいうことを卑しんで言う時の例えです。
ことわざからもわかるように、空笑いは、意識的に作る作り笑いということも言えます。苦笑いのように、無意識に相手に配慮した笑いよりもネガティブなイメージがつよい言葉です。
類語2:作り笑い
目が笑っていない、おかしくもないのに笑う、という意味で「そらわらい」と似ている表現ですが、そらわらいよりも少しだけ相手の気持ちに寄り添った、柔らかい言葉です。
その意味では、苦笑いに近いニュアンスを持っていると言えます。苦笑いと違うのは、その笑い顔を「意識的」につくる場合が多いことです。
類語3:あざ笑う
あざ笑うとは「あざける」という言葉を含んでいることからもわかるように、ばかにして笑うこと、人の失敗を笑うことです。
苦笑いにも似ていますが、声に出して笑うことを考えると、相手への同情や配慮は無く、よりネガティブな表現と言えるでしょう。作り笑い<空笑い<あざ笑う、の順番にマイナスイメージが強い表現になっていきます。
類語4:力なく笑う
「力なく笑う」という表現は、元気がない、がっくりしたときに出る笑いです。失笑と同じように使うことがありますが、間違いなので気をつけましょう。
先ほども書いたように、失笑は思わず笑ってしまうことですから、そこには本来、ネガティブなイメージは含まれません。力なく笑う、という言葉の中には、やれやれ、という弱々しい気持ちが含まれています。
苦笑いはある意味大人な対応
ここまで、苦笑いについて、一般的にはネガティブなイメージで受け取られがちな例をいくつか挙げてきました。こうしてみると、嫌いな人への対応や興味がない事を振られた時などを苦笑いで乗り切ることは、むしろ大人の対応と言えるでしょう。
興味がなくても、好きじゃなくても、その場の空気を壊さないように配慮した結果が苦笑いを生み出しています。苦笑いで乗り切ることは、平和的に物事を解決しようとする思いの表れです。
大人げない人・愛想笑いな人とは
私たちの周りには、自分の欲求を優先する自己中心的な人がたくさんいます。意思表示をすることは大切なことですが、それが自分の利益や興味に偏った人は、分別がない、と言われても仕方ありません。
大人として当然あるべきとされる思慮や配慮ができない人の苦笑いは、ただの愛想笑いです。いくつもの似たような表情も、心の中には微妙な違いがあるもの。苦笑いを上手に使って、ポジティブな人間関係を築いていきましょう。