真摯さの意味とは
「真摯(しんし)」という言葉の意味、知っていますか?自分で使うことはめったにないと思いますが、政治家や企業などのお詫び会見でよくでてくる言葉です。「今回の結果を真摯に受け止めて・・・」というように、反省の弁のまくら言葉のように使われます。
他にも
・「真摯に対応」
・「真摯に取り組む」
・「真摯に耳を傾け」
・「真摯に反省」
・「真摯に向き合う
・「真摯な姿勢」
・「真摯な気持ち」
・「真摯な口調」
など、いろいろなフレーズがあります。悪い意味が含まれているようには思えませんが、正確にはどのような意味なのでしょうか。「真摯」は国語辞書によれば「真面目で熱心なこと」、「真面目でひたむき、事を一心に行う」などの意味とされています。
「真」は「まこと、うそのないこと」という意味で、語原は「死者」と「倒れた首」との組み合わせから成っていて「のたれ死んだ人」を表す漢字です。死というものは偽ることのできない絶対的な真実なので「まこと」という意味に転じたと言われています。「摯」の語源は「手」と「捕らえる」の組み合わせで、「しっかりとつかみ捕らえること」を意味しています。そこから「手厚い、真面目に」という意味に転じています。この二つの漢字の組み合わせで「真摯」は「嘘なく真面目にとらえる」という意味になるのです。
ドラッカーの言う真摯さとは
ドラッカーってどんな人?
ドラッカーという人、知ってますか?「管理職、リーダーには真摯さが必須」ということを説いた学者です。ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(1909年 - 2005年)はウィーン生まれの経営学者で、「現代経営学」や「マネジメント」の礎を築いた人です。
2010年から2013年にかけて300万部近い大ベストセラーになった岩崎夏海さんの小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」でドラッカーブームに火がつきました。ドラッカーは著書「マネジメント」のなかで、マネージャーには「真摯さ」が必要ということを説いていますが、この「真摯さ」にはより深い意味があるようです。
ドラッカーが説く真摯さという資質とは?
ドラッカーの説く「真摯さ」は、一般的な「真面目でひたむき、事を一心に行う」という意味では説明不足で、ドラッカーの真意が伝わっていないかもしれません。原文ではこの「真摯さ」のところには「integrity」という単語で書かれています。
「integrity」は英和辞書では「正直、誠実、高潔、廉直」などと訳されていて、細かなニュアンスは解りません。英英辞書で見ると「the quality of being honest and strong about what you believe to be right」とされていて、「自分が正しいと信じていることについての正直さ、誠実さとその思いの強さの資質」というところでしょうか。正直さ、誠実さに加えて、正義とか信念、強く変わらぬ意思、実行力といったキーワードがあるようです。
つまり、ドラッカーの言う「真摯さ」、「integrity」は「正義に対する強い信念に基づいて一貫した正直さと誠実さで、一所懸命に仕事などの使命に取り組む資質のこと」と言えるのではないでしょうか。仕事での真摯さやリーダーとしての真摯さなどについてドラッカーは数々の提言をしています。
仕事での真摯さとは
仕事での真摯さとは何か、というテーマだと難しい仕事のことを思いがちですが、どんな仕事であっても真摯さがなければ良い仕事にはつながらないと言われています。政治家であっても、企業経営者や管理職、コンピュータ相手のプログラマーやパートタイムの主婦であっても、仕事に対する真摯さがなければその仕事で大きな成果は得られません。
仕事に対する真摯さで大切なのは、その仕事によって期待されている使命、成果をなんとしてでも仕上げるという粘り強さと強い意思です。その前提としてその仕事が正しいこと、仕事に正義がなければなりません。仕事の遂行の仕方のなかに正義がある場合もあるかもしれません。
「真摯さは習得できない。仕事についたときにもっていなければ、あとで身につけることはできない」とドラッカーは言っています。真摯さは資質なので、とってつけたように習得はできないということです。その仕事に正義が見つけられないという人は、たぶん「真摯さ」をすでに身につけている人なのでしょう。いろいろな制約があるかもしれませんが、自分に合う働き方を考えてみるのも幸せへの選択の一つかもしれません。
リーダーとしての真摯さとは
理想のリーダーは?
毎年、理想の上司一覧が発表され芸能人やスポーツ選手などが順位を競っています。ただ、選んでいるのが社会人経験のほとんど無い新入社員なので意味があるのか疑問の残る一覧です。
「家庭の医学」の出版などで知られる保健同人社が、管理職にとっての「理想の上司イメージ」一覧を発表しています。
1 面倒見が良い
2 責任感が強い
3 配慮ができる
4 分析力がある
5 創造性に富む
真摯さのなかの責任感や面倒見、配慮といった項目と、真摯さで問われる何としても仕事を成し遂げるための実務能力である分析力や創造性が挙げられています。リーダーとして真摯さという資質は欠かせないようです。
ドラッカーが説くリーダーの資質は真摯さ
ドラッカーは著書「マネジメント」のなかでマネージャーの資質として最も重要なのは「真摯さ」とし、「マネージャーにしてはならない人五ヶ条」という条件を説いています。
1.強みよりも弱みに目を向けるものをマネージャーにしてはならない。
2.何が正しいかよりも、誰が正しいかに関心を持つ者をマネージャーに任命してはならない。
3.真摯さよりも、頭の良さを重視する者をマネージャーに任命してはならない。
4.部下に脅威を感じる者を昇進させてはならない。
5.自らの仕事に高い基準を設定しない者もマネージャーに任命してはならない。
特に真摯さのない人については、「そのような者は人として未熟であって、しかもその未熟さは通常治らない」と一刀両断に切り捨てています。この五ヶ条の裏返しがマネージャー、リーダーとしてふさわしい人ということになりますが、「真摯さ」がベースになっていて「理想の上司イメージ」にも通ずるところがあります。
真摯さを伝えるためにはどうしたらいいのか
真摯さを伝えるにはどうしたら良いでしょうか?真摯さというのは資質なので、その資質が無い人には真摯さというものが何なのかが解りません。解らない人に伝えるというのは難しいものです。そういう人に真摯さを伝えるには、それこそ真摯に伝える努力をしないと伝わらないでしょう。真摯さが無ければ気持ちを伝えることはできません。
経験や行動を共有することができれば、そのなかでの真摯さを伝えたり、あるいは感じ取ってもらえるかもしれません。共に行動し経験することで、正義とか信念に基づいて正直に、誠実に一所懸命取組む姿勢が一部分でも伝えられことでしょう。経験は最高の学びの場なのです。
もう一つ大切なのは、情報発信、意見発信でしょう。行動の方法や想い、考えなどを情報発信することで、真摯さの行動への理解が広がり共感者も増えることでしょう。また、会議などでの意見発信も重要です。正しいと考えることを発信する、ただその時に優しさや思いやり、そして情熱がなければ、なかなか人の心には届きません。
意見が対立することもあるかもしれませんが、対立させないと良い案や良い結果というものは出てこないものです。「相手や部下からの反対意見にいかに寛容であるか」ということが重要なポイントで、議論を通じて真摯な対応に結び付けていくことが望まれます。
仕事だけでなくライフスタイルも真摯に
初回公開日:2017年07月21日
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