まず、直観的思考のイメージは複雑さよりもシンプルさです。直観的思考をするためには、遊び心を持つ、頭を意識的に空っぽにするといったイメージをしてもらえるといいでしょう。
普段は適当で遊んでいるように見えるのに、ここぞというときハッとするようなアイデアを出してしまう人が、あなたの周りにもいないでしょうか。
一方で、真面目かつ論理的に考えているのに、その内に思考過多に陥って、精神的に疲れてしまう人もいます。後者の人はいまいち仕事等で効率的に結果も残せません。直観的な思考の性格は、自由な発想が出来ることですが、思考過多に陥った状態からは生まれ得ないものです。
直観的な思考は、ある意味論理的思考に逆行するような考え方になります。論理的思考を意図的にス有数し、頭の中にスペースを作ってあげなければ、直観は降りて来ません。単に論理的に考えていても、自分がしている定義付けの外にある発想は浮かび辛いです。
考える力と無意識
意図的に論理的思考をス有数することは、自分の無意識の領域に働きかけることに繋がります。人間の意識の中においては、顕在意識と呼ばれる意識に上っている思考は氷山の一角です。顕在意識に昇ってこない無意識の領域のほうが遥かに広大であり、ここにアイデアを発想するための様々な可能性が眠っています。
無意識の領域においては、観念は顕在意識において、秩序だって整列されてはおらず、アメーバのように流動的な形をとっています。そしてこの観念同士は、ある程度顕在意識の要求に従いながらも、比較的自由に他の観念と結びついたり、離れたりということを繰り返しています。
顕在意識で論理的に考えることによる締め付けを緩めることによって、無意識の中で観念同士の自由な化学反応が起こりやすくなります。これが直観的思考が起こる原理です。
昨今、グーグルなどの企業で取り入れられ話題になっているマインドフルネスも、意識にスペースをつくり、無意識にアクセスすることを目指した手法になります。
不確定性を受け入れる勇気
例えば、あなたが料理をつくって、レシピで指示されている調味料が手元にないとします。その時、論理的に考えればその調味料を買いに行くか、それに近いもので代用するという考えに行き着きがちです。
しかし、普段から直観的に考えることに慣れている人は、風味がなんとなくその料理に合いそうだという無意識からのイメージから、全く別の調味料や食材を代わりに入れてみる、ということを発想します。結果時に、既存のものになかになかった全く新しい料理を発明してしまう、といったことすら起こります。
このように、無意識を取り込んだ新しい発想は、不確定性を受け入れることができなければ出てきません。つまり、いつも良いアイデアが出てくる保証も、そのアイデアが必ずしも良い結果をもたらす保証もないということです。このため直観的に考えることは一種のチャレンジであり、リスクを伴うということです。
物事の不確定性を受け入れるには、結果に対する性急さを持たないことも重要です。論理的思考は結果への最短ルートを取ろうとします。しかし、回り道のなかに得てして面白いアイデアが転がっているものです。直観的に考える力を養うためには、心理的な心掛けとして、遊び心や余裕を持つことが必要です。
また、普段から面白そうなことに着目する感性も育てていかなければ、直観的に考える力はつかないでしょう。
とはいえ論理的に考える力も必要
とはいえ、直観的思考によって考えられたアイデアは、現実社会の中に落とし込んでいく段階で、既存の常識と摩擦を起こさないように、修正を加える必要があることも事実です。なぜなら直観的に閃くアイデアは多くの場合抽象的なイメージであったり、漠然とした感覚だったりするからです。
アイデアは実現の段階でより具体的な形へと翻訳される必要があり、その段階でアイデアが既存の現実に及ぼす作用を計算する、などの論理的思考もしていかなければなりません。
論理的に考える力を伸ばすには、哲学系の本を読む(特に論理哲学系の本)、囲碁や将棋をやる、数学の計算問題を解く等の方法があります。
論理的に考える力を鍛えることは、スポーツに例えるなら筋力トレーニングに近く、比較的やればやっただけこの種の力は伸びていきやすいです。それに対して直観的に考える力は、スポーツに例えるならばその競技におけるセンスのようなものです。
これを伸ばすには、競技のツボを感じ取るための柔軟な感性、そして何よりその競技を楽しむ気持ちが不可欠になります。このニュアンスは考える力においても似たところが大いにあるでしょう。この2つの力が両輪のように働いてはじめて、考える力を伸ばしていけるのです。
考える力をつける本
忙しく、前述した「意識してイメージする」ことが難しい方は、本を読むこともお勧めです。通勤通学や隙間時間に取り入れやすく、外部から脳に働きかけることで違う刺激にもなり、脳が活性化されます。
書籍を2冊ご紹介します。
人間はいろいろな問題についてどう考えていけばいいのか / 森博嗣 著
ベストセラーを数多く生み出す多作な小説家にして、工学博士、元大学助教授という文理にまたがった異例の肩書きを持つ著者が、具体的な問題に囚われない「抽象的思考力」を養う方法について書いた本です。
森博嗣さんの小説作品は論理的技巧に満ちていながら、論理の枠に収まらない奥深い感性を感じさせます。そんなミステリアスな著者が一体どのようにして普段思考しているのか、それを垣間見られそうな本書は著者の小説のファンであれば興味深いことこの上ないでしょうが、それ以外の方にとっても考える力を伸ばす上で多いに得るものがある一冊でしょう。
直感力 / 羽生善治 著
言わずと知れた将棋界の生きるレジェンド羽生善治氏が、その数々の対局の中で得た、直感的に考える力の本質について書いた本書は、一般人の私たちからすると想像の届かない境地について書かれているようにも思えてしまいます。
しかし、ものごとの本質というのは、かえってシンプルなところに帰着するものだとも言えます。もちろん読む側のレベルに応じて、彼の言葉から受け取れる共感のレベルは違ってくるでしょうが、どのようなレベルの人でも、読んでみるだけで常識に囚われた思考をもう一度シンプルな本質へと戻してくれるような力が、この一冊からは感じられます。
人は、考えていないときに考えている
私たちは「問題」と聞くと、障害のようなネガティブなイメージをもってしまいがちです。しかし考える力のある人は、よりよいものを生み出そうとする意志のあるところに問題はつくられる、とポジティブに考えることができます。問題があるところには、能動的に何かを生み出す余地があるとも言えます。
「好きこそものの上手なれ」という諺がありますが、このように問題を提起し、それを解決する発展的なプロセスの楽しさを知れば、考える力は自ずと伸びていくものです。
考える力を伸ばしたいからといって、そのための方法を考えることにがんじがらめになるよりも、一旦考えることをやめて、楽しく考えるイメージから、もう一度考える作業に戻ってくることで、考える力の本質がつかめるでしょう。
論理的に考えるのもいいですが、それだけでは疲れてしまいますし、片手落ちです。机やパソコンの前でよい考えが浮かばないか、考え込んでいるあなたも、休憩がてら一度外へ散歩などに出て、リラックスし、頭を空っぽにしてみてはいかがでしょうか。かえってそのときより良いアイデアがポンと浮かんでくることも多いものです。
初回公開日:2017年10月07日
記載されている内容は2017年10月07日時点のものです。現在の情報と異なる可能性がありますので、ご了承ください。
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