「代理体験(モデリング)」とは、自分自身が行動する前に他人のやり方を観察したり成功体験を聞くなどして「自分にもできそうだ」と感じる経験のことで、わたし達が何かを始める時に当たり前に要求する「お手本」「見本」などはその好例です。
これから行おうとしていることを上手く達成している人の様子から、自分にもできるとイメージすることが肝心なので、この場合はモデルとなる人が自分に似た環境下にあったり、条件が近いほど自己効力感を向上させるのに効果的だと言われています。
言語的説得
言葉による励ましや暗示を与えることで自己効力感を向上させる「言語的説得」は、「君ならできる」「あなたには能力がある」と言葉による暗示を与えられることで、前述した達成経験や代理体験に比べて消失しやすい体験であるため、他の補助として付加されることが望ましいとされる方法です。
自己効力感は、自分が行動を起こした結果や努力そのものに対して、特に専門性に優れていたり信頼できる人格を有する他者から認められることによって、より高められる傾向にあります。
生理的情緒的高揚
「生理的情緒的高揚(情動的喚起)」は、緊張でドキドキすると気持ちまで不安になったり、余計に緊張してしまう自分自身の生理状態を知覚することによって、自己効力感に影響を与えることです。今まで苦手としていた場面で落ち着いていられたり、赤面症の人が赤くならなかったりという体験を積むことで、自己効力感が強められると言われます。
また、アルコールや薬物による精神の高揚感をはじめ、掃除をやり遂げたときの爽快感や、目標を達成できた時の高揚感などを拠り所として自己効力感を高める方法もあります。
想像的体験
「想像的体験」は、自分自身や他者の成功を想像する、イメージトレーニングです。人間の脳は想像したことと実際に体験したことを区別しないという特質があることから、願望をリアルに想像することで達成感や成功感を体験することができます。
自己効力感のための本
「自分の限界を決めるのは自分自身」などと言いますが、人間の信念はキリストが「山をも動かす」と語ったほど強いもので、無理と思えば絶対に無理です。そんな凝り固まった信念をスピーディーに揉み解したい時は、専門家の意見に耳を傾けましょう。ここでは、自己効力感を高めるのに役立つ本をご紹介します。
残り97%の脳の使い方
「エフィカシー(自己効力感)」という言葉をポピュラーにした立役者の一人が、認知科学者の苫米地英人氏ではないでしょうか。
カルト教団オウム真理教の元信者の洗脳を解いたことで一躍知名度を上げた苫米地氏の書籍はどれも大ヒットしていますが、中でも「残り97%の脳の使い方」は、売上げ15万部を突破した作で、イメージトレーニング法など自己効力感を向上させる具体的な方法が語られています。
専門的な分野を扱った書籍でありながら、2時間もあれば読了できてしまう読みやすい文章に加え、心理学に基づいたメソッドで効果が分かりやすいのの秘密でしょう。
エフィカシーの高め方の具体例が記されている、
わかりやすく、2時間程度で内容を理解することができた。
自己効力感だけじゃダメ
自分には目標を達成するだけの能力が備わっていると感じられることは幸せなことであり、答えのない人生を生きていくうえで大切なことです。しかし、自己効力感が高ければ人生は平和で豊かになるかと言えば、人間の心はそれほど簡単ではありません。
たとえば、上手くいかないことが続いた時などに、「何となく上手くいくと思った時でも、自分は必ず失敗する」「自分が失敗するのは、生まれつき運が悪いせいなのかもしれない」という思考に陥ったことはないでしょうか。
世の中には運が悪かったと思って潔く諦めざるを得ない出来事があることも事実ですが、失敗をいつも運のせいにしていたのでは、いつまでも目指す目標に到達することはできません。次に、自己効力感を中心に、同じく健全な生き方に必要とされる「自己肯定感」とのセットで考えてみます。
自己効力感があっても自尊心が低い
それなりの実力があるのに自尊心が低く、自己効力感が高い人は、計画が上手くいっても自分の努力の結果だとは認められません。何のとりえもない自分がうまく立ち回れるのは運が良いからだと考え、スピリチュアルや宗教に関心を寄せたりします。物事が上手く進んでいるうちは良いですが、自己分析ができていないという弱点があります。
自尊心はあるのに自己効力感が低い
多くの場合、物事に失敗するのは努力が足りなかったためと考えられますが、自尊心は高いのに自己効力感が低いという人は、能力のある自分が失敗するのは運が悪かったためだと考えたり、原因が自分以外のところにあると考える傾向にあります。また、失敗を真摯に受け止めないので、何度も同じ失敗を繰り返しがちです。
人間として尊い存在であることと得手不得手は別なので、「自分は自分」と開き直らずに、時にはコツコツ努力してみてはいかがでしょうか。
自己効力感の尺度
特に保健指導に有用な概念のひとつに数えられる自己効力感は、おもに「認知行動療法(Cognitive behavioral therapy:CBT)」における認知的変数として、現在までに多くの「評価尺度」が開発されています。認知行動療法とは、従来のように人間の行動だけに焦点を当てるのではなく、思考や認知に注目した新療法のひとつです。
調査票は大きく「行動の積極性・失敗に対する不安・社会的な能力」の3つの項目から成り、それぞれいくつかの設問に対して、当てはまると思うもの・そうでないものに「はい・いいえ」で答えるというシンプルなものが一般的です。
精神分析が無意識領域を扱うのに対し、意識的な思考は観察が可能で、科学的根拠に基づく有効性も認められています。また、尺度をマニュアル化できるため、自助ツールとして活用することも可能です。
自己効力感の看護への影響
自己効力感の理論は、職場環境におけるストレスの軽減や、看護教育の分野でも活用されています。自己効力感を向上させることにより、何事にもやる気が出ない、億劫に感じるなど、精神疾患や精神運動抑制が改善されることが知られており、退院後も再発のリスクが軽減されると言われています。
これには、自己効力感が高まることで、困難な問題の解決にも積極的に取り組めることや、ストレスに対する抵抗力が向上することなど、ストレスの多い環境下でも心の健康を損なわないための対処行動が可能になるためとの理由が挙げられています。
自己効力感に関する論文
九州保健福祉大学大学院社会福祉研究科の越谷 美貴恵氏は「後期高齢者の自己効力感に関する研究(A study on self-efficacy of the elderly)」という論文の中に、バンデューラ博士の社会的学習理論に基づいた自己効力感に焦点を当て、75歳以上の後期高齢者が健全に生きるための意欲に影響を与える要因についてまとめています。
老人施設の入所者と、デイケアに通っている平均年齢85.7歳の老人65名を対象に行った面接調査によれば、自己効力感の高い老人では今の生活を前向きな気持ちで生きること、家族や周囲との人間関係が良好であること、健康であること、趣味があること、自分の半生を肯定していることなどの特徴が見られたということです。
一方、自己効力感の低い老人になると、今の生活に対する不満や、これまでの人生に対する後悔、身体的な不調などが挙げられました。幸せな老後を楽しむためには、まず健康であること、積極的でポジティブな性格、趣味をもつこが大切であることが分かります。
初回公開日:2017年11月09日
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